https://twitter.com/take___five/status/750310314760024064
これを踏まえ、私がなぜ「法テラスを使うべきではない」と考えているのかを述べたいと思います。
ものやサービスには適切な価格というのがあります。
ものやサービスの価格を決定する要素は様々ですが、基本は
①必要な経費を賄えること
②需要と供給の関係
です。
よく、価格は需要供給の関係で決まるといわれます。
しかし、需要供給バランスが崩れて、「適切な価格」より下回ることが恒常化すると、それが集客戦略といった特別な事情がない限り、その業界は沈没する、すなわち、サービス提供者が減少し、最終的には大資本による独占寡占が発生し、調和ある自由競争原理は消滅します。
したがって、①と②は、①が主で、②は従の関係にあると考えます。
②だけで判断するのは、原則として間違いと考えます。
私が法テラスを忌避する最大の理由はここにあります。
弁護士は、日弁連が定める広告規程により、広告方法が限定されています。
一方で、法テラス(のみならず弁護士会)には、この広告規定が適用されない(一度弁護士会に諮ったとき、そのような公式回答がきたことがある)のです。
個別の弁護士は、広告規程により広告手段が限定されている。
また、かけられる広告費用にも限度がある。
さらに、法テラスには税金が投じられていて予算が豊富である。広告規程の適用がないから広告手法は好き放題である。
これは、独禁法8条1項ないし4項との関係で問題になりうると考えます。
【参考】公取委「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」
「資格者団体については、法律上「会員の品位の保持に関する規定」が会則記載事項として掲げられており、これを主な根拠として、資格者団体は、会則等において、広告に関する自主規制を行っている。資格者団体の行う広告に関する規制が法律上一定の根拠を有するとしても、会員の事業活動を過度に制限するような場合には独占禁止法上問題となるおそれがあり、その内容は、需要者の正しい選択を容易にするために合理的に必要とされる範囲内のものであって、会員間で不当に差別的でないものとすべきである。」
要はアンフェアである、ということです。
そうして、法テラスが高い集客力を持つ→圧倒的な価格支配力を持つ→税金が投入されるという盤石な財政的基盤の下で低廉価格でのサービス提供が可能(さらに集客力が増す)→弁護士の下請け化
という構図が完成します(下記図参照)。
一方で、文句を言いながらも、法テラスを利用する弁護士は少なくありません。
その理由は、(弁護士において)費用の取りはぐれがないから、というところが大きいです。
しかしながら、以下のように考えます。
①費用の取りはぐれという点を避けたいという点は理解できるとしても、弁護士が安易に法テラスに依存し過ぎ、法テラスに力を持たせすぎると、上記図のとおりの流れが出来上がってしまい、そのことは、調和ある自由競争原理の破壊をもたらします。
②そもそも、受任時に、事件の経済的合理性という点を踏まえる必要があるのではないか。
法テラスがあるから費用は一応取れる、
としても、最終的には、依頼者にその費用は(分割ではあるが)請求されるものなので、そうであれば、法テラスを利用しての分割と、直接弁護士と契約しての分割とで、「取りはぐれリスク」ということ以外、違いがない。
しかし、弁護士において「取りはぐれ」のおそれのある事件は、法テラスを利用するとしても「法テラスにおいての取りはぐれ」につながるのであり、そのようなケースについてまで、弁護士は受任しなくてはならないのか。そうした事件に、経済的合理性はほんとうにあるのか。
よく「お金の問題ではない」という事件があります(たとえば、隣人との境界確定などがあります)。こうした事案は、たとえば、係争地の価値が数十万円程度、ということも多々あり、そういう場合に、弁護士費用及びそれ以外の付帯費用がそれを超えるということも考えられます。
当然、経済的合理性にかかわらずやらなきゃいけない事件というのはあるわけですが、弁護士費用やその他の付帯費用というのは、一定程度、紛争(裁判所に持ち込まれるという意味での)に対する抑止力として作用すると思います。
この抑止力というのは、けっこう大事だと私は思っています。
紛争は、起こらないで済むならそれにこしたことはないからです。
しかし、法テラスにおいて「(一括の)費用がなくても手軽に紛争に対処できる」というのは、こうした抑止力のバランスを、悪い意味で崩しているのではないか、と感じることがあリます。
もちろん、経済的合理性だけで判断してはダメだとは思うのです(お金がないために、正当な法的請求ができなかったり、正当な反論の機会を逸したりすることもあり、それを避ける必要はある)。
が、それを超えて紛争が顕在化することを、経済的合理性というファクターでもって抑止するというバランスが、失われると、紛争の起き方が変わってきます。
それを、悪いことと断定するのは早計でしょう。
しかし、いいことと断定するのも、それと同じくらい早計だと思います。
大切なのは、紛争の起き方について、一定の問題がないかを、しっかりモニタリングすることだと思います。今は印象論にすぎませんが、わたしは、紛争の起き方が、この数年で大きく変化したと感じています。それには、法テラスの影響が相当あると見ています。
まとめると、法テラスには、少なくとも、
1 健全な自由競争を阻害する
2 広告集客がアンフェアである
3 紛争を抑止する「経済的合理性」のバランスを崩している疑いがある
という問題点があると考えています。
本当は、ほかにも「4 法テラスに報酬決定権を握らせている以上、法テラスが事件処理にあれこれイチャモンをつけてくる余地がある=弁護士自治を阻害する危険をはらむ」というものもあります。
したがって、これらの問題点からすると、法テラスの報酬を上げれば万事解決、とも言いがたいと考えています。
なお、私は、こういうコザコザを考えるのがいやになっているので、法テラスとの契約を終了させ、今は法テラス案件は扱わないことにしています。