日弁連というのは、本当に「信頼回復」を考えているのでしょうか?
成年後見における弁護士の横領事案が多発する中、日弁連は、被害者向けの救済制度を設けるとのことです(記事へのリンクはこちら)
この制度には、以下に述べる通り、大きな問題がいくつかあります。
この制度は、弁護士である会員の出した会費から、被害救済のお金を出す、というものです。
しかし、まっとうにやっている会員からすれば
・自分たちが選任に関与できないところで裁判所が勝手に決めた成年後見人が
・これまた業務に関与できないところで当該弁護士が勝手にやらかした横領事犯につき
・まったく手続保障の機会の与えられていない他の会員、とくに、成年後年人業務をしていない会員までもが
・「弁護士」だからというだけの理由で
・経済的責任を負わされなければならない
というこの制度は、形式的に制度導入したうえで会員から強制的にカネを巻き上げることはできるにしても、これを正当化する実質的理由に乏しいと思います。
そして、この実質的理由が脆弱であるために、弁護士会としてはこの制度はガバナンスのつもりで導入するのかもしれませんが、真っ当に仕事をしている会員を打ち出の小槌くらいにしか思っていないのだろうな、と私は理解しています。
ただでさえ高すぎる会費を取られていて何のサービスもない(どころか、労役がある)のに、まだ取るつもりか、ということで、これでは余計に日弁連に対する求心力が減退するでしょう。
それなら、強制加入は廃止=弁護士自治も要らない、という声が上がる可能性がありますが、こういう制度を安直に考案する人たちは、そういう影響については一顧だにしないのでしょうか。
私は、この制度を導入する影響としては、これが一番怖いです。
次に、この制度は、「信頼回復のため」に導入を検討しているといいます。
しかし、
・「信頼回復のため」に「(この制度を)導入する」という口ぶりからすると、「俺らの仲間内にドロボーはいるんだけど、オレらが代わりにカネ返すようにするから信頼してね」といってるに等しく、被害者救済より弁護士(会)の「信頼回復」が主目的であるように思える。
・真の意味での「信頼回復」を求めるなら、予防策(ドロボーが入らないようにするための策、といってもよい)が伴わないといけないはずだが、それがない。
予防策の一案としては
◯成年後見人名簿登録時に、厳格な資力調査を行う(名簿更新ごとに資力をチェック)
◯宅建業や旅行業のように、保証金を拠出させる(場合によってはそれを被害回復に当てれば良い)
◯後見監督人を必須とする(ただし、後見監督人がやらかしたケースもある)
というものが挙げられますが、そういう話はまったく出ていません。
・そもそも、これだけ横領被害を出している「弁護士」に、成年後見人業務の適格性があるのか自体、疑問がある。
・制度上も完全救済されるわけではなさそうだし、そもそも損害額で争いになることが目に見えているので、完全救済は事実上困難であろう。
完全救済にならない以上、被害者の心証は良くならないし、事件があるという時点で世間の弁護士に対する信頼はなくなるでしょう(こういう推量ができないのが、市民目線を標榜しながら、実際にはできていないという、今の日弁連の問題じゃないのかなあと思っています)。
こんな制度で、信頼回復に繋がるのか、大いに疑問があります。
ここがよく勘違いされているのですが、そもそも、成年後見人は、弁護士でなければできないという業務ではありません(独占業務ではない)。
このようなことが続いているというのであれば、ことによっては、日弁連は、
「弁護士には、成年後見人業務のような大きなお金を預かる仕事は、できません、やる能力がありません」
と宣言するのが、利用しようとする一般市民に対するスジではないのか、とさえ思います(もちろん、これは、望ましい結末とは思いません)。
日弁連が打ち出したこの施策は、
・「業務拡大」を焦る余り、やれもしないことを引き受け、
・こともあろうに顧客の財産を領得した者の尻拭いを、
・お金で済ませようとするだけの制度であり、
・あまつさえ、「信頼回復」という、本当に実現可能かわからない抽象極まるロジックでもって関係のない会員にまで事実上の連帯責任に近い経済的負担を負わせる
制度であり、
・対会員(なかんずく成年後見人業務をしない会員)に対してはもちろん、
・成年後見制度を利用しようとする一般市民
に対しても、何の説得力も持ち得ない愚策中の愚策だと考えます。
信頼回復を謳うのであれば、「この人に預けておけば安心」という安心感が必要です。
弁護士に、それがあるのか?
被害救済制度があれば安心なのか?違うでしょう。
被害防止をどうするか、が一つも語られていない。
カネですまそうという発想にしか見えません。
そもそも弁護士会費はただでさえ高いのに、真っ当にやってる会員の業務効率化や福利厚生など会員の利益のためには殆ど使われてこなかったのに、悪さをしたドロボーのためになら躊躇なく使われる、ということでもあり、到底納得がいきません。
自分たちのお金ですらこんな使い方をするのに、母体である日弁連からしてこのような考え方の弁護士という集団に、一般市民が、貴重な財産を預けようとこれで思ってもらえるのか、と思います。
ところで、司法書士会では、リーガルサポートセンターという団体をつくって、成年後見業務に特化した業務サポート等をしているようです。今や、成年後見人は、司法書士の独占業務であるかのようにも感じます(実際には違います)。
これに対し、日弁連は、会員から高額の会費を取りながら、今まで、そういう取り組みをまったくしてきませんでした。
それで、横領が多発した今頃になってから、「業務拡大(というか維持)」のために「信頼回復」と称して「会員のカネを差し出しますからお許し下さい」というのでは、虫がよすぎると思います。
マジメに成年後見業務されている人が大半なので言いづらいけど、こんな事実上の連帯責任を負わされるのなら、家裁はもう弁護士を成年後見人に選任しないでもらいたいです。
もしくは、成年後見人からの報告義務をもっと密にするようにして、監視監督機能を強化して欲しいと思います。
ただしそのためには一定の人員配置=予算措置が必要でしょう。
裁判員制度なんかにリソースを使うくらいなら、こういうことに使ってもらいたいなと思います。
「信頼回復」について述べた上記2では、予防策として、思いつきながら幾つかの私案を書かせていただきましたが、これらの私案を導入すると
「おカネ持ちしか成年後見人ができないようになる」
といった批判がありうるところだろうと思います。
これは、成年後見人の給源の問題ですが、これは、別に考える必要があるでしょう。
信頼回復を重視するなら、成年後見人の給源は絞られる必要があると考えます。
要は、成年後見人の給源をどこまで絞るか(この点は、成年後見業務をどこまで弁護士が獲得しようとしているか、ということとも裏腹である) vs. 会員がそのためにどこまで負担を甘受するか、のバランスの問題だと私は考えています。
このように考えると、会員も、一定のドロボー(不祥事)に対して負担を甘受すべき、との考え方も成り立ち得ないではないでしょう。
しかし、それなら、成年後見業務をする人だけで、前出のリーガルサポートセンターのような団体をつくり、そこで、成年後見人名簿に登載を希望する人だけが所属し、登載希望者には一定の保証金を出させる(前記2の「予防策」と同様)などの方法も、バランス上、考慮するべきでしょう。
今回の日弁連案は、そういうことも一切無視して、全会員に等しく「ドロボーの被害救済にカネ出せ」ですから、あまりにもバランスを失している、というのが、私の考えです。
このバランスが取れないのなら、弁護士が成年後見業務から撤退し、司法書士(会)に全面的に明け渡す、という選択肢も、場合によっては、やむを得ないものと考えます。