本記事は、当ブログの2014-08-13 10:16:08の改訂版です。
まんが店「まんだらけ」が、万引被害について、加害者と思しき人の写真を、商品を返さないと一定期間過ぎたら開示する、という話がありました。
その開示期限が平成26年8月13日午前0時に設定されていたので、私もどのような対応を取るのか注目していました。
結果としては、開示せず、だったようです。
このようなばあい、弁護士としては、どのようなアドバイスをするかというと、一般的にはこんな感じです。
やめるべきです。
これは、コンプライアンスの観点から、いかにも弁護士的な、通り一遍の話です。
しかし、それが法治国家というもの。
私刑を許容すると、適切に行使される保障がなくなります。
たとえば、当該写真を勝手にコラージュされて、誰かを陥れるネタに使うことだって可能。
SNSに載ったりすると、その被害は甚大です。
もちろん、官憲が常に適切にその司法警察権を行使しているのかというと、それなりに疑問があります。
しかし、私刑はそれ以上におそろしいものだと思います。
メディアスクラムや、ネットにおける炎上事例を見ていればわかると思います。
いつ誰がターゲットにされるのかわからない。
一旦暴走しだすと止めようがない、ある意味、人災でありながら、自然災害です。
(これに対し、官憲による司法警察権は、コントロール不可能というわけではない。)
警視庁による公開中止要請は、そのような観点から出されたものだと思いますが、このような要請が出ること自体、異例だったと思います。
しかしながら、こう思う人も多いでしょう(私も思ってますが)。
「どうせ万引きとか警察がちゃんと捜査せんだろう。やられたい放題じゃないか。どうすりゃいいんだよ」
そこで、弁護士に依頼する、という方法があります。すると、通常はこうなります。
②相手方の住所等を調べる。
なお、刑事記録は、確定まで参照できないことが多い(重大事件などは特例がある)し、黒塗りにして出される場合も多く、大事なところがわからないこともある。
③請求する(まともに払ってくるケースは非常に少ない。そもそも、勾留されていたりすると、家族が応じないかぎりどうにもならない)
なお、弁護士費用は、全額が認められるわけではない
④③では払ってこない→裁判
⑤時間がかかる、証拠が必要
⑥結審→判決
⑦判決に基づき請求→しかし、まともに払ってくるケースは非常に少ない
⑧強制執行(加害者の財産の差押え)
→しかし、そもそも刑務所等に収監されていれば、財産がない、調べる方法が極めて限定的であるなど、功を奏しないことが多い
⑨あきらめざるをえない
END
①着手金 など、弁護士費用の問題は大きいと思います。
また、②で述べたように、証拠資料の収集も、対応する法令がバラバラすぎて、現場の官公署も理解していないことがあり、独自に解釈されて開示しない方向にされたりすることもあります。証拠資料が揃わないと、裁判は起こせません。
弁護士とすると、これだけの手間暇やそれに応じた費用がかかるのに、依頼者に渡せる分が少ない事件は、申し訳なく思うのものです。
(そういうときのために、顧問契約をしていただくと(1ヶ月3万~)、この点は柔軟に対応可能です)
こういうことを書くと、「弁護士は社会正義のために動くのではないのか!」とお叱りを受けそうです。
お叱りごもっともですが、しかしながら、弁護士は、軍師にすぎません。
軍師とは、兵力や武器※の性能・コスト・相手方の力量その他諸々の要素を総合考慮して、自国にとってもっとも利益の上がる、もしくは損失の少ない案を出す係です。
(※「武器」は、法律です。法律が「武器の性能」を決めます。)
そのうえで、法律上できる場合は「できる」と伝える。
できるが、コストと時間がかかる場合はその旨を伝える。
コストと時間のかからない方法があれば、それを伝える。
弁護士という「軍師」は、法律の使い方や性能は知っていて、ときにはその性能以上のものを引き出すTipsも持っている。けれども、基本的には、(法律に)定められた「性能」以上のことはできません。
(PCのCPUのクロックアップみたいなもんです。やりすぎると焦げます)
法律は、国民の代表者である国会議員が集まる国会で作られるものです。
皆さんが関心を持たないと、法律は作られ・改正されません。
私は、小規模な商店などが泣きを見る現状、被害回復のためにとんでもない労力をかけさせられる現行の犯罪被害者法体制は、まったく望ましくなく、もっと厳正に対処できる立法が必要と考えています。
自分が精魂込めた仕事をそういうふうにされることが私は大嫌いです。
畢竟「あんたが被害店舗だったら同じ事言えるの」という指摘を得た場合の、私なりの考えというのはあります。
そこで、私なりに、被害者救済を考えた立法案を考えてみました。
②ただし、刑事事件においては、「犯罪行為の存否」が中心であって、被害額についてはかなり絞られているのが通例なので、民事では、これを別に請求せざるを得ない。
とはいえ、犯罪行為の存否については確定しているので、損害額を別に「疎明」する資料を民事の裁判所に提出すれば、それで執行力のある「決定」を出せるようにする。
④「決定」にはもれなく慰藉料と弁護士費用をつける。被害の完全回復のためである。
慰藉料は、犯罪類型や被害者側がうけた取調べの長さに応じて一定額を定める。
(加害者側の手続保障は、下記⑦執行段階でのみ、執行異議の訴えによって与えるっこととする。これは、被害者が応じざるを得なかった取り調べ等については、加害者の全面的な負担とするべく、これらの費用は被害者の負担には一切させず、執行異議のう負担を加害者側で負うようにする)
⑤任意で払うよう、被害者から加害者に請求させる。
⑥⑤の書面で定めた期間内に加害者が任意に払おうとしない場合、④で「決定」した額の2倍を、請求可能なものとする(執行力あり)。
⑦強制執行の前段階として、被告人の勤務先についての情報(協会けんぽや年金事務所が把握しているはず)を、全面的に被害者に開示する。
→給与債権の差押えがしやすくなる。
⑧執行が奏功しない場合、被害者の請求に基づき、警察庁のHPにその旨を開示する。
まんだらけ事件を機に、犯罪被害者救済のための法制に対する関心が高まることを、切に願う次第です。
裁判員裁判で法に関する市民の関心が高まるなんてことは絶対にありません。
裁判員制度、厳罰化などでは、何一つ被害の回復にはつながりません。
私は、市民の関心は身近なこうした問題にこそあると思っています。