10月末に宮崎県で九州弁護士会連合会(九弁連)の大会が開かれました。
その大会に際して、弁護士から意見を募ろうということで、では、ということで意見を具申するべく、意見書を起草いたしました。
今回私が意見書に書いたテーマはおおきく2つ(いまのところ)。
1 九弁連大会の在り方について
2 依頼者保護給付金制度について
です。

九弁連大会が、もはや若手にまったく関心を持たれていない、そしてこれとはニアリーイコールだと思うのですが、九弁連自体の存在意義すらもよくわからなくなっているような気がするので、ちょっと思ったことを書いてみた次第です。

以下本文です。
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1 九弁連大会の在り方について

(1) メインテーマ

 業務からかけ離れているものが多いように感じています。そのせいか、出席者の中に占める若手会員はほとんどおらず、若手会員の関心の低さを窺わせます。

 大会は地方で開催されるので、出席には時間と費用がかかります。今、その負担をできるだけの余裕のある若手会員は多くないと思われ、まして、業務関連性のないテーマであれば、出席の意欲がわかないのはやむを得ない結果だと思います。

 これでは、せっかくの大会の存在意義が半減します。

よって、テーマを、業務寄りにすることを期待します。

(2) 意見交換会の時間の短さ

 時間が短すぎます。30分ではなにも議論できません。鹿児島大会のときは1時間弱を取っていただきましたが、それでも時間が足りませんでした。

 執行部がこのような場を設けてくださることはありがたいと考えていますが、今の弁護士会・弁護士業界は、自分たちの足回りが崩れゆく状態であり、その足回りをしっかり議論することこそが重要だと考えますが、大会のこの時間配分では、そのようなことはあまり必要ない(もしくは優先順位が低い)と思われているかのように感じられます。

 率直に申し上げると、在職○年表彰などのセレモニーは極限まで簡素化し、意見交換会にもっと多くの時間を割いてもよいように思います。

(3) 会場

 会員の生活が厳しくなっている、という趣旨の報道や意見に触れるようになって久しいです。福岡県弁では昨年会費がかなり値下げされました。執行部の熱意の賜物だと考えていますが、それでもまだまだ他士業に比べれば会費が高すぎます。

 もはや弁護士は高収益の職業ではありません(希少価値により高収益だったかもしれませんが、現今の弁護士激増・法テラスによる単価下落・事件数減少・広告業者等の跳梁による経費増大・隣接士業による職域の侵食などにより、収益力はデータ上も大幅に低下しています)。

 したがって、さらなる会費削減は喫緊の課題であり、これなくしては会の求心力は低下しつづけ、存在意義すら問われ、最終的には強制加入廃止論・すなわち弁護士自治の崩壊のトリガーになり得ると考えます。

 にもかかわらず、日弁連総会・九弁連大会は、常に大きな施設・かつ地域一のホテルを貸し切って行われており、上記のような弁護士の経済的実情に照らすと、奢侈にすぎるのではないかと思います。

(4) 今後について

 これまで述べたとおり、大会自体が奢侈にすぎること(これが会費を押し上げている)、にもかかわらず大会に対する若手会員の関心が極めて低いことを勘案すると、いまや、大会の存在意義さえ問われているのではないかと考えます。

 そこで、業務とかけ離れたテーマで続けていくのであれば、これ以上大会を継続する意義がないと考えるので、大会そのものを取りやめる、もしくは、大幅に簡素化することで、経費節減・会費削減の一助にすることが、会員のためになるものと考えます。

 2 「依頼者保護給付金制度」に強く反対する意見

 昨年より議論が始まった表記基金について、強く反対します。以下理由を述べます。

(1) まっとうにやっている会員を納得させるだけの実質的な正当化理由が存在しない

 この制度は、弁護士である会員の出した会費から、被害救済のお金を出す、というものです。

しかし、まっとうにやっている会員からすれば

・自分たちが選任に関与できないところで裁判所が勝手に決めた成年後見人が

・これまた業務に関与できないところで当該弁護士が勝手に行った横領事犯につき

・まったく手続保障の機会の与えられていない他の会員、とくに、成年後年人業務をしていない会員までもが

・「弁護士」だからというだけの理由で

・経済的責任を負わされなければならない というもので、到底承服しがたいものです。

これでは余計に日弁連に対する求心力が減退するでしょう。その結末として、強制加入廃止論=弁護士自治不要論が高まる可能性もあり得ると考えます。

(2)信頼回復につながらない

次に、この制度は、「信頼回復のため」に導入を検討しているとのことです。しかし、この制度では、以下に述べる理由から、信頼回復につながらないどころか、かえって弁護士の信頼(あるいはイメージ)を損ねる結果になるでしょう。

①「信頼回復のため」に「(この制度を)導入する」というコンセプトからすると、「弁護士の中に横領する危険のある人物はいるけれど、いざとなれば弁護士みんなで代わりにお金を返すようにするから信頼してください」といっているようなものであり、被害者救済よりも弁護士(会)の「信頼回復」が主目的であり、一般市民の観点からして、アリバイ作りにしかみえず、あざとさを感じる。

②真の意味での「信頼回復」を求めるなら、予防策(横領の危険のあるような人物が入らないようにするための策)が伴わないといけないはずだが、それがない。

たとえば、予防策の一案としては

 ◯成年後見人名簿登録時に、厳格な資力調査を行う(名簿更新ごとに資力をチェック)

◯宅建業や旅行業のように、保証金を拠出させる(場合によってはそれを被害回復に当てれば良い)

◯後見監督人を必須とする(ただし、後見監督人がやらかしたケースもある)

といった方法も一例として挙げられるはずであるところ、そういう話はまったく出ていない。

・制度上も完全救済されるわけではなさそうであること。そもそもいざ被害者からの請求が行われた場合、損害論で争いになることが目に見えているので、完全救済は事実上困難であろう。そして、完全救済にならない以上、被害者の心証は良くなることはなく、「弁護士」に対する信頼はなくなるでしょう

こんな制度で、信頼回復に繋がるのか、大いに疑問があります。

 (3) 弁護士会=会員には、賠償をする法律上の理由が存在しない

 すなわち、弁護士会=会員には、賠償責任が法律上ないのに、「依頼者保護給付金制度」は、実現不可能な「信頼回復」をコンセプトに、わざわざ、非義務弁済の余地を作ろうとしてます。

 この態度は、弁護士として、「法的に義務がないのに、ソフトな対応を求めると称して、圧力に屈して支払う」という、通常事件ではおよそあってはならない態度であり、このような態度に、弁護士としての矜持もなにもありません。

 そもそも、こうした事件における民事上の責任は、第一には行為者本人、第二に選任した家庭裁判所(近時これを認める裁判例も出た)にあるのであり、なぜそこに弁護士会がわざわざ介入するのか、法的な観点からも、理解に苦しみます。

 (4) 財政負担に堪えることができない

 昨年の弁護士による横領被害金額は、約21億円ときいたことがあります。

 昨年度の日弁連の会費収入は、約55億円ですから、依頼者保護給付金制度が成立し、かつこれが「完全賠償」を行うようになれば、会費収入の約4割が、依頼者保護給付金の支払いに消えることになります。

 日弁連は、このような負担に堪えることができるのでしょうか。

 (5) 費用収益対応原則違反=会費が損金として否認されるおそれ

 依頼者保護給付金制度による支出分は、会の一般財源から拠出される、すなわち、我々が汗水流して働き依頼者からいただいて得たお金から支払った、他士業に比べてきわめて高額の会費から拠出されます。しかし、依頼者保護給付金に相当する会費相当部分は、会員には何一つ収益をもたらすものではありませんから、費用収益対応原則の観点からすれば、この会費相当部分は、損金としては否認されるのではないか、と危惧しています。

 (6) 小括

 もとより日弁連・弁護士会が会員の経済的利益に資することは期待していませんが、せめて、もう少し有益なお金の使い方をしていただくよう、よろしくご検討をお願い申し上げます。

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