Airbnbによる「民泊」が話題になっています。
特に福岡は「国家戦略特区」に指定されている地域ですから、いやがおうにも注目があつまっています。

しかし、考えてもらいたいことがあります。
一戸建てなら完全自己責任ですみますが、集合住宅(マンション、アパート)の場合、特にセキュリティをしっかりして静謐さを維持するマンションの場合、多くはそれをウリにして、入居者もそれを前提に入居しているわけで、不特定の第三者が闖入することは考えていないはずです。

実際、様々なリスクをはらんでおり、それを実体験として漫画にされた方がおられます。Twitterで閲覧に供されていますが、非常にわかりやすく問題点をあげておられ、多くの方にご覧いただきたいと思いましたので、リンクを貼らせていただきます。

石橋式 特別編 民泊でひどい目にあいましたレポート 全3頁

そのような中で、一部の入居者が、Airbnbを利用してホストとなり、宿泊客を受け入れるとなると、そうしたセキュリティなり静謐さが損なわれるというリスクをかぶることになります。

ホストは、宿泊料金を、リスクの対価として受け取れます。
しかし、ホスト以外の他の入居者はリスクしか負わないわけです。
そもそも、ホスト以外の入居者にとっては、そのような不特定の第三者がマンション内に闖入しているかも知る機会がないわけですから、リスクとメリットの平仄はまったく合わないといえます。

そういうリスクを認識したうえで、Airbnbによる「民泊」に自宅マンションを供用してほしくないとき、どうすればよいのでしょうか。
ひとつは、法令の問題ですが、これが「国家戦略特区」になれば緩和される可能性が高いので(周辺法令まで手を付けられるかは疑問だが)、あてにならない。
ならば、マンションの管理規約を中心に問題にすれば良い、というのが、この意見書の主な拠り所です。管理規約は国がいじる話ではないので、国家戦略特区だろうがなんだろうが関係ありません。

そのような発想をもとに、集合住宅用(分譲でも賃貸でも)に、Airbnbでの「民泊」利用に供用してほしくない人のために、「意見書」を起案しました。
多くの人が、これをマンションの管理組合及び管理会社に提出すると、Airbnbが利用できる範囲は、相当に絞られる可能性があります。

私がこれを書こうと思ったのは、Airbnbが悪いといいたいわけではなく、だいたい以下の理由によります。
①住人として、リスク管理はきちんとしてもらわないといけないという思い
②昨今の規制緩和一本槍のイケイケ方針に、一つ水を注したい。規制には、何らかのバランスをとるための理由があり、その理由を踏まえずにただ緩和するというだけでは、守られているバランスが破壊される。
③その結果、予期せぬ(というか規制が予期している)リスクが発生する確率が有意に上昇するおそれがあるのに、そのことにまったく思いが致されていない風潮に強い違和感があります。
④Airbnbは、昨今深刻になっている空き家の有効活用にも有効だとも思っています。
そして、無資産でもはじめやすい起業方法としても有力です。
こうした起業方法と空き家の有効活用が一体化して起業者及び空き家所有者の双方にとってWin=Winなビジネスツールと私はみています。
が、それだけに、こうしたコンプライアンスをキチッとすることが大切だとも思っています。そのことを、Airbnbによる起業を考えている方にはきっちり考えていただきたい。
それを考えずに「何がコンプライアンスだ。規制が悪い!バレなきゃいいんだ!」という人は、起業する資格がないと思います。

というわけで、もしマンションでAirbnbを利用されたくない場合は、ぜひご活用ください。

Airbnb(エアビーアンドビー)の解禁による当マンション住民へのリスク管理と、それに伴う管理規約の見直し又は確認を求める意見書

◯◯マンション管理組合 理事長 御中
◯◯不動産管理株式会社 御中

平成◯年◯月◯日
◯◯号入居者 甲山 乙男

意見書の趣旨

1 当マンションの入居者は、管理規約上、Airbnbを利用した宿泊者の受け入れをすることが認められないことの確認を求める。
2 仮に前項の趣旨が管理規約の解釈上明確でない場合、管理規約を改訂し、当マンションの入居者が、Airbnbを利用した宿泊者の受け入れをすることが認められないようにすることを求める。
3 仮に前2項が受け入れられた場合、当マンション管理組合及び管理会社名において、当マンションの入居者がAirbnbを利用した宿泊者の受け入れができないことを入居者全員に周知するよう求める。

理  由

1 はじめに~Airbnbとは何か
Airbnbとは、自宅などを宿泊施設として提供したい個人(ホスト)と、いわゆるホテルとは異なる宿泊体験がしたい旅行者を仲介する、アメリカ・カリフォルニア州発のWEBによるサービスである。
端的に言えば、自宅に宿泊させても良いと考えているホスト側が、住人外の第三者(以下「宿泊者」という。)を、自宅に宿泊させるサービスであり、宿泊者からホストに対価(宿泊料)を払うことを想定したサービスでもある。
これにより、部屋に余裕があるホストは、遊休状態の部屋を有効活用することで宿泊料を得ることができるし、宿泊者にとっても、ホテル不足といわれる昨今、宿泊場所を見つけやすくなる・あるいは、宿泊料を節約できるなどのメリットがあるといわれている。
つまり、部屋を貸すホスト側にとっても、宿泊者側にとっても、メリットがあることから、このWEBサービスは、爆発的に普及する可能性が高いと言われている。

2 いわゆる経済特区構想による旅館業法上の規制の「解禁」

(1) 現行法上の法的規制とその趣旨
人を宿泊させてその対価を得る行為は「旅館業」に該当し、旅館業法の規制を受ける。旅館業法における「旅館」であるためには、その設備等につき様々な条件を課せられることになり、それらをクリアして初めて認可を得られる。また、派生的に、「旅館」を開設するには、供用しようとする建物について、消防法や建築基準法・都市計画法上が求める諸条件を具備する必要がある。
様々な規制がかけられている趣旨は、一言で言えば、不特定または多数の宿泊者を投宿させることにより生じる様々なトラブルを可及的に回避すること、ないしは、宿泊者の安全衛生を守るという点にある。
認可を得ず「旅館業」を営めば、旅館業法違反[1]となるし、消防法その他の法令にも抵触する可能性があり、刑事罰を受ける可能性がある。

(2) 規制の「解禁」
一方で、外国人旅行者を積極的に受け入れようとする政府の政策にもとづき、旅館業法上の規制を、特別法(国家戦略特区法など)により緩和する方向であり、当地は「特区」に指定されることから、かかる規制が「解禁」される方向にある。

3 懸念される問題点
しかしながら、規制の「解禁」により、以下の点が懸念される。
(1) 宿泊者による迷惑行為・犯罪行為
一般的に、定住者であれば、近隣との人間関係が、迷惑行為に対する抑止力となる。また、近隣と知己であるということは、犯罪行為を犯すと足がつきやすいことを意味するので、同様に、抑止力になる。
一方で、Airbnbの場合、宿泊者に対しては、定住者と同様のルールやモラルを要求しづらい状況にあるといえる。すなわち、宿泊者による迷惑行為・犯罪行為が懸念されやすいといえる。
かかる懸念があるにもかかわらず、オートロックなど、当マンションのセキュリティで守られている「保安区域」内にそうした不特定の人物の闖入を認めることになるわけで、セキュリティが有名無実となってしまう。
しかも、ホスト以外の入居者にとっては、宿泊者が宿泊しているかすら把握する機会がないわけで、リスクに備えることすらできないのである。

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[1] 福岡県議会6月定例会予算特別委員会で、原中誠志県議(民主)の質問に対し、同法の監督官庁である県は下記の通り回答。「自宅の建物を活用する場合であっても、宿泊料とみなすことができる対価を得て人を宿泊させる業を営む者については、旅館業法の許可を取得する必要がある」

 (2) ホスト側のリスク管理能力・万一の場合のリスクヘッジに対する懸念
ところで、業として行っているホテル・旅館の場合、宿泊者の情報把握や管理について十分なノウハウを有している(そもそも旅館業法6条において、宿泊者名簿の備置が旅館側に義務付けられている[1])。
しかしながら、Airbnbを利用するホストは、宿泊客について一定の情報を把握する機会はあるものの、旅館のように宿泊者名簿を備置するわけではないし、また、本業として営まれる旅館などとは違い、自宅において片手間で運営するわけであるから、業として営まれている旅館のような宿泊者の情報把握や管理ノウハウを持ち合わせていない、すなわち宿泊客の情報把握や管理が十分になされる保証がない。
また、たとえば宿泊者が火災を起こした場合、通常は、火災保険によって損害が填補されることになるが、保険は、住宅として供用されることを前提に料率が設定されているのであって、有償で不特定の人物を宿泊せることによるリスクを前提として料率が設定されているわけではない。
すると、万一の火災などのリスクに対して、保険が免責され、損害が填補されない可能性すらありうる。
つまり、Airbnbによる規制緩和が認められるとしても、ホストの管理能力が高まるわけでもなければ、万一のリスクに対するヘッジがされるわけでもない。4 結論
以上の点をまとめると、自らの意思で宿泊者を受け入れるホストは良いかもしれないが、それ以外の入居者にとってはリスクを一方的に(かつ宿泊者がいるかも知る機会がない状態で)背負わされることになる。
にもかかわらず、前記の通り、ホスト側に、リスク管理能力やリスクヘッジを期待できない状況にあり、ホスト以外の入居者にとっては不公平な結論となる。
よって、冒頭の「意見書の趣旨」のとおり、管理規約の確認等を、本書をもって求める次第である。

以 上

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[1] 宿泊施設担当者、宿泊者自身が宿泊者の氏名、住所、職業その他の事項を記載。宿泊者自身が記入する場合は、宿泊者カードに記入することもある。記載事項として、前記情報のほか生年月日や電話番号、前泊地などの情報の記入を求められることもある。なお、外国人宿泊者は、国籍やパスポートの旅券番号も必要となる。