煽情的なタイトルで恐縮です。
かつて、前の「福岡の家電弁護士」ブログで、著作権法改正に伴うダウンロード処罰規定の新設にあたって書いたブログ記事を、今回、アレンジして再掲しようと思いました。

どうしてかというと、現在導入されかかっている「共謀罪」(テロ等準備罪)と関連するからです。
同罪では、なんと「著作権法違反」も対象の罪に指定しています。

「なんでや!テロと著作権なんか関係あれへんやんか!」
なんて、そんなこと法律は関係ありません。

定められたらそれが法律であり、強制力を持ちます。
争う?最高裁まで争うのにどれぐらい時間が要ると思いますか?想像してください。
やむなくそうならざるを得ない場合もありますが、「この法律は大丈夫ですよ」といってからめとられていったケースがどれだけあるか。

そもそも、日本の刑事司法を、そこまで信頼できますか?
ということです。現場にいてそれは痛切に感じます。

という前置きの中で、「Youtubeを閲覧したら共謀罪でパクられる」というのがどういうことか、少しめんどくさいことも書いてますが、少し考えてみました。一緒に考えていただけるとありがたいです。

1 今回のポイント
まず権利者に無断で著作物をネット上にアップロードする行為は、著作権法上違法であり、処罰対象であることには疑いがありません。
他方、今回問題にする、無断アップロードされた著作物をダウンロードする行為(違法ダウンロード)を、それと知って違法ダウンロードした場合には、処罰の対象となります。

すると、違法に入手されたであろう著作物(とくに動画)を、単に視聴することも、「ダウンロード」として違法になるのでしょうか。
答えは、Noです。
この点、著作権法47条の8においては、
「電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。」
と書かれています。
つまり、動画を単に視聴する際は、一次的に、パソコンのメモリ領域にデータが複製されるものの、それは、「当該電子計算機(パソコン)・・・円滑かつ効率的に行うために必要・・・限度で・・・記録」されたにすぎないものにあたり、複製権を侵害したということにならないのです。
ですから、今回の改正法にかかわらず、視聴をするにとどまる場合には、違法性はない、ということになるでしょう。

しかし・・・
インターネットエクスプローラー、QuickTime、RealPlayer、Youtube及びニコニコ動画のような、一旦データをダウンロードして、ダウンロード中でも再生可能とした技術(これを、プログレッシブ(先行)ダウンロードといいます)の場合は、視聴者側の PC にメディアファイルが保存される、すなわち、一時的にではなく複製されます。そして、後で消去すると考えると分かり易いでしょう。

このような技術的観点からすると、たとえば、Youtubeで著作権処理されていない著作物を閲覧したら、閲覧した時点で複製権侵害なので、処罰対象となる=逮捕も理論的には可能=と考えます。
この点、文化庁あたりは、著作権法47条の8の例外が適用されるから適法とか言ってたような気がしますが、これはあくまで一官庁の見解にすぎず、一官庁の見解と検察・裁判所の判断が異なることはしょっちゅうあります
すると、検察が「Youtubeは、技術的に見て、法47条8の例外が適用される「動画の閲覧に際して、複製(録音又は録画)が伴う(文化庁)」というものではなく、同条の適用はないんだ!」=裁判所がそう認めることだって、理論的にはかなりありうる話だと考えます。
また、違法にアップされた著作物の視聴は、送信者の公衆送信権侵害によって行われているので、本条にいう「(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)」と規定されている点からも、法47条の8による例外の適用対象外になるのではないか、という疑問が残ります。

これらの点が解決されていない以上、上記のような、プログレッシブダウンロード技術を用いた動画の視聴は、理論的には、処罰(に向けた逮捕勾留)の対象とされてもおかしくないということになります。

少なくとも確実なのは、蓄積されたデータを取り出せば、それは、著作権法49条にひっかかり、違法行為ということになる、ということです。これだけは完全なクロです

2 捜査の端緒との関係~誰でも犯罪者にされる可能性!?
違法アップロード系の刑事事件としては、いわゆるWinnyやShareといったピア・ツー・ピア(P2P)ソフトを利用したファイル共有ソフトによるアップロードが処罰されるケースが典型的です。
このような事件の捜査の端緒は、サイバーパトロール(欠く都道府県警及びそこから委託された民間業者によるインターネット上の違法・有害情報の巡回チェック)によるものもあれば、著作権者ないし著作権団体からの通報によるものもあります。
もしも警察がこれらの端緒により違法アップロードを認知した場合、警察は、発信者のIPアドレス(インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続されたPCや通信機器ごとに割り振られた個別の識別番号)を手がかりに、サーバーごとにアクセス記録をたどっていって、最終的にはインターネットプロバイダにたどり着き、インターネットプロバイダから当該IPアドレスが割り当てられている契約者の情報の提供を受けて、発信者(アップロードした者)を特定し、強制捜査を行います。
強制捜査においては、被疑者の家にドヤドヤやってこられて、令状を提示され、パソコンを差し押さえられることになります。
場合によっては、逮捕されます。
著作権法違反による逮捕というのは、もとより、特別でもなんでもありません。

4 なにが恐ろしいか?
ダウンロードは、アップロードのように、いちいちファイルを選択してアップロードするという過程を踏む必要はなく、ただ、リンクをクリックすればいいだけの手軽な作業です。
つまり、アップロードに比べ、違法行為の実行行為のハードルがきわめて低いことが、恐ろしい点だといえます。

5 さらなる恐ろしさ~日本における「逮捕」に対する意識
さらにこわいのが、日本の場合、逮捕さえされれば、イコールその人は犯罪者であるとの推定が働くのが実情ですから、これは脅威だと思います。

すなわち、クリックひとつで「犯罪者」に仕立てあげられる危険があるのです。

相当に穿った見方をすれば、お国が「こいつパクったれ」と思う人がいれば、そのIPアドレスを察知し、違法ダウンロードの履歴を検索し、それを端緒にその人を身柄拘束するツールとして用いることも、技術的には十分に行い得るでしょう。

身柄拘束(逮捕)すれば上記のように社会的には終わらされるので、非常に好都合ということになります。

 

6 共謀罪で、さらに処罰しやすく。
ただでさえこうした懸念のあるものを、共謀罪で、周辺者まで、簡単に処罰できるようにする

著作権侵害のコンテンツが掲載されているYoutubeのリンクを、FBでシェアした、ツイッターでRTした。
こうした場合、リンクがシェア(RT)されるリンク張り行為は、もともと著作権侵害ではないのです。

しかし、気になる決定例が出ています。
最高裁第三小法廷平成24年7月9日決定(判時2166号140頁)です。これは、

「URL貼り付け行為は児童ポルノ公然陳列に該当する」

というものです。
これは児童ポルノ法の問題ですが、このロジックはほかの刑罰法令にも応用されていく可能性が高いとみられます。
つまり、こうしたURL貼り付けが、幇助行為的に「共謀」と言われる可能性というのは、残るのです。
でなきゃ、著作権法を共謀罪の対象犯罪に指定する必要がありません。

こういう流れになることが容易に想定されるので、この共謀罪は、いざとなったら、都合が悪いやつを放り込んでおく道具にしようとしているのだろうな、と見るのが、自然かな、と考えます。