1 はじめに
壇俊光先生の下記ブログ記事に感化されて、私も少しまとめてみたいと思いました。
ネット上の誹謗中傷対策につき、法改正の動きがでてきたというのは、それ自体喜ばしいことではあります。
が、反面で、表現の制約につながることにも用いられうる、という問題意識を、忘れてはなりません。
そこで、このネット上の誹謗中傷対策について、どのような問題意識で議論されるべきか、初歩的なところですが忘れ去られがちな大切な問題意識をお伝えしたいと思い、本ブログを構成しています。
ネット上の誹謗中傷対策をどのように「改正」するかは、ごく抽象的には
1 「誹謗中傷」の定義付け=適法違法の分水嶺
2 開示手続の簡素化
の2点が問題です。以下順に述べます。
ただし、本ブログは、細かい議論まで想定しているわけではなく、兎にも角にも「問題意識」のところを忘れないようにすることのみを目的に構成しています。
2 「1 「誹謗中傷」の定義付け=適法違法の分水嶺」に関する問題意識
「誹謗中傷」の概念について、皆さんはどう考えておられるでしょうか。
私が思うに、一般の人が考えている「誹謗中傷」の概念と、法律家が考える「誹謗中傷」の概念は、まったく別物と言ってよいくらいの埋めがたい乖離があるように感じています。
ここを間違えると、結構まずいことになるので、まずは、「誹謗中傷」という、法的でない概念の定義づけ・整理から、ちゃんとしないと、この議論はおかしな方向に行く可能性もあると、懸念しております。
この議論は、つまるところ
名誉権・プライバシー権その他対象者の権利 vs 表現の自由・通信の秘密
のバランスを、どこで取るのか、という問題に尽きます。
ここは、実体法的な部分の問題です。
もし「改正」にあたって、「誹謗中傷」の概念そのものをいじるということになれば、上記の対立構造をきちんと意識して議論する必要があると思います。
3 「2 開示手続の簡素化」に関する問題意識
次に、開示手続の簡素化。
私は、「誹謗中傷」概念をいじるのではなく、とにかくここをどうにかしてほしいと願っています。
パッと思いつく問題点としてこんなところがあります。
問題
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壁になっている法制度
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海外サイト(Twitterとか)を利用しての誹謗中傷に関し、訴えを起こすのにかかる手間(海外の謄本取寄せ/翻訳文の添付)
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民事訴訟法
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地方から訴えを起こす際の管轄の問題(とくに海外法人を相手にする場合が問題)
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民事訴訟法
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損害賠償請求よりも重い要件(権利侵害の「明白性」の要求/違法性阻却事由の不存在まで被害者が立証しなくてはならない)
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プロバイダ責任制限法
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いちいち本人の実印・印鑑証明を要求される(訴訟でもそんなことはない)
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プロ責ガイドライン
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まだまだあります
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グローバル化した現代社会で、かつインターネットのプラットフォームの多くを海外企業が保有している現代において、まったく時代にあわない使い勝手の悪いこうした法制度を使いやすく変えること。
このことこそが、「改正」されるべき課題ではないかと。
このことこそが、「改正」されるべき課題ではないかと。
4 雑感
ところが、報道を見ていても、この問題意識に、たどり着いていると思えるものがあまり見当たりません。
国会・総務省が動き出しているけれど、総務省は、おそらく問題意識を理解している(はずだと思います)が、国会がどうなんだろうか・・・ブロッキングのことがあったし・・・と思っています。
国会・総務省が動き出しているけれど、総務省は、おそらく問題意識を理解している(はずだと思います)が、国会がどうなんだろうか・・・ブロッキングのことがあったし・・・と思っています。
裁判所ですら、「こういう事件(削除、特定)はじめてです」ということがしばしばあり、浸透しているとは言えない。。。
情緒的なところを最後は守りたいわけですが、議論すべきところは、そういう情緒的な話ではなく(情緒の問題は議論になじまない)、上記3で例示した、技術的なところです。
問題意識がズレた変な議論にならないように・・・