弁護士の永留です。

以前、家庭裁判所の裁判官をしていたときの思い出話を一つ。
裁判官室には、最新の言い渡されたばかりの判決を紹介する判例雑誌のコピーが回覧板になって回ってきます。
地裁や家裁のもあるが、高裁など上級審判決もあり、とりわけ最高裁の判決の回覧は現場の裁判官としては絶対見落としてはなりません。
ある日、いつものとおりその一つを読んでいたところ、ビックリ・仰天。
その判決内容は次のとおり。
すなわち、
「 協議離婚に伴う財産分与契約において、分与者が自己に譲渡所得税が課されることを知らず、そのような理解を当然の前提とし、かつその旨を黙示的に表示していたときは、財産分与契約は動機の錯誤により無効となり得る。」
(最高裁判決平成元年9月14日(判例時報1336号93頁))

夫婦の離婚で不動産などの物件があれば、当然財産分与が問題となり、これは調停や和解の現場では、めずらしくもなんともありません。
この事件の夫は、自分名義の豪邸か何か高額の不動産をそっくり離婚する妻に財産分与するとして離婚成立の調停か裁判上の和解が出来たのでしょう。
このとき、夫は、高額不動産物件を財産分与として受け取る妻に対し、調停か和解かの成立のとき、妻の税金支払いを心配して、「大丈夫か」と声をかけたとのこと。

要するに、このとき夫は、自分自身に対して、多額の譲渡所得課税が課されるとはつゆほども考えていなかったのでしょう。
確かに、夫は、財産分与で、それが売買ならば、これに対応する売買代金のような対価を受け取ることもなく、不動産を妻に譲るばかりで、自分に所得税がかかるなどとは思いもしなかったと思います。

そこで、結局、最高裁は、夫の錯誤無効の主張を認めて、調停か和解かで決まった財産分与を無効とする余地があるとしたものです。

このように我々弁護士の世界では、税金問題は重要であり、そのため当事務所の弁護士は、普段公認会計士さんや税理士さんと一緒に勉強会を開き、税金問題と関わる法律問題に精通することを期しており、またこれら税理士さんたちと連携を図っています。