弁護士の吉井です。
長く議論されてきた民法(債権関係)改正ですが、平成27年2月10日、要綱案が決定され、同月24日、法務大臣へ答申されました※。
この要綱における改正の内容は多岐にわたりますが、そのうちでも、「定型約款」の明文化は、重要な改正の一つと思われます。
定型約款とは「定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの…)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」とされています※。
取引先の個性を重視する取引で、単に交渉力の差から画一的になっているだけの契約は該当しないとされていますが※、ウェブサービスにおける利用規約の場合、取引先の個性を重視しておらず、交渉自体も存在しないことが通常であるため、B2Bの取引であっても、定型約款にあたる場合が多いのではないかと思われます。
当事者の一方が用意した契約に法的な修正を加えるものとしては、現行でも、消費者契約法による制限がありますが、民法改正による定型約款の規定は、消費者、事業者の区別なく、定型約款に広く制限を及ぼす点に特徴があります。
定型約款について、合意があったとみなすことができるのは、定型約款を契約の内容とする旨を当事者間で合意したときや、準備する側で、定型約款を取引相手に表示している場合とされていますが、内容面で、取引相手の権利を制限し、義務を加重する条項で信義則に反して取引相手の利益を一方的に害するようなものについては、合意をしなかったものとみなされることとされています。
合意にいったん取り込まれるものの、無効ということではなく、そもそも合意がないとされていることは特徴的です。
このほか、定型約款の表示方法、個別的な合意なしに行う変更の有効性についても規定がおかれます。特に変更の有効性に関しては、変更の内容について、相手方への影響や変更の合理性により判断されること、変更前に事前の周知が必要であり、これがなければ、効力を生じないことなどのルールが明確化されています。
現状、ウェブサービスの利用規約を見る限り、このような定型約款のルールに沿った規定となっていないものが多く見受けられます。
民法(債権関係)改正については、これから国会に提出される見込みであり、まだ成立の目途は立っておりませんが、利用規約の内容は、自社のビジネスのあり方やリスクの取り方に大きな影響を与えるものですので、一度、定型約款の規定を念頭に、検討しておく必要があるように思われます。当事務所では、契約、規約のチェック、作成業務も行っておりますので、ご相談いただければと存じます。