Q 私は株式会社を経営しています。私が社長で、唯一の株主です。
私も高齢になり、最近では体調もすぐれないので、副社長の長男に会社を譲ろうと考えています。私には長男の他に次男が一人います。次男は、以前から会社の取締役になることを希望していますが、浪費癖があるため、会社の経営には一切関与させておりません。
私個人の財産といえば、自社の株式ぐらいです。
今のうちから何か対策が必要でしょうか。
A 事業主や会社の代表者(以下「経営者」といいます。)の引退、死亡等を原因として、経営を承継することを『事業承継』と呼びます。
経営者が何も対策をせずに亡くなると、経営者の相続人が、経営者の株式を、法定相続分に従って取得します。質問事例では、質問者の長男と次男が、株式を2分の1ずつ相続することになります。そうすると、これまで経営に関与していなかった次男が、会社の株式の半数を有する(大)株主となり、定款変更、取締役の選任及び取締役の報酬額の決定など会社の重要事項を決定するときは、次男の賛成が必要となってきます。
次男の協力が得られれば問題はないのですが、長男と次男の意見が対立すると、重要事項の決定ができなくなり、会社経営そのものが停滞するということにもなりかねません。
では、質問者は、「株式の全部を長男に相続させる」という遺言を残せばよいのでしょうか。
残念ながら、これだけでは十分とはいえません。なぜなら、次男には、民法で、『遺留分』という遺産に対する一定割合が保障されており、この割合は、遺言書をもってしても侵害することはできないとされているからです。次男の遺留分は、相続財産の4分の1となりますので、質問者が長男に株式の全部を相続させるという遺言を残したとしても、次男は、株式の4分の1を取得することができ、先に述べたような心配は残ります(取締役の選任は株主の過半数で決定することができますが、定款変更は株主の3分の2以上の賛成が必要となります。)。
このような遺留分の問題を解決することなどを目的として、平成20年5月に、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「円滑化法」という。)が制定されました。
この円滑化法によって、所定の手続きをとれば(具体的には、経済産業大臣の確認を受けた者が、当該確認を受けた日から1か月以内に家庭裁判所に許可の申立てを行い、許可を受ける)、①経営者から後継者への①生前譲渡株式を遺留分の対象から除外すること、②生前譲渡株式の評価額を譲渡時の価額に固定すること、が可能になりました。
遺留分特例の他にも、事業承継に際して必要となる資金の支援や、非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度などの特例も定められています。
このような規定を上手に活用して、スムーズな事業承継を進めていくことが、会社の安定的な経営につながり、ひいては会社の株主、従業員、債権者、取引先等の利益となります。
事業承継には、高度の法律知識が必要となりますので、事業承継を御検討の方はお気軽に御相談ください。
(弁護士 川上 修)