弁護士の向原です。

このところ、税の滞納処分(差押え)関係でほぼ同時期に立て続けに類似したご相談があって、いずれも、いい形で解決しました。

要するには、税の滞納処分(差押)に先行する「送達手続」の誤りに関する問題なんですが、うち一つの事例をご紹介させていただきます(ご本人の了承済み)
1 在外者XがA国に海外渡航している間に、課税庁Y市は、Xが国内に残していた銀行口座に、過去の租税に関する滞納処分がかけられた。
2 しかし、滞納処分に際し、Xのところには何らの通知も送達もされていない。
3 Y市は、Xの住所として、「A国」としか把握していなかったことから、Xに対する送達は国税通則法14条にいうところの「外国においてすべき送達につき困難な事情があると認められる場合」とみなして、通常の送達手続を一切とることなく、いきなり公示送達をした
4 しかし、Xは出国に伴う転出時、当該Y市役所から、新住所につき、A国とのみ書けばよいと教示され、A国内の具体的な住所を記載しなかった。なおこのときにY市からXに対しては、滞納税額等についての教示はなかった、という事情があった。
5 しかしながら、国税通則法14条の「困難な事情があると認められる場合」とは、国交の断絶や戦乱、その他送達がまともにできない事情がある場合をいうところ、本件A国はそれにあたらないこと、また、同条に関する通則通達では送達に必要な調査をするべきであるところそれをした形跡もなかった。

このため、Y市は本件の滞納処分に先行してなされた送達の違法性を認め、滞納処分が効力を発しないものとして、滞納処分を解除してくれました。

本件の「間違い」が起きた原因は、Y市役所が、今回の滞納処分に先行する送達につき、十分に法令を精査しないで公示送達を利用したことにあります。
おそらく、殆どの人はこうした滞納処分に対して諦めてしまい、文句を言わないと思いますので、これまで問題があまり表面化しなかったのかもしれませんが、課税手続やその先にある滞納処分(差押)というのは、法治国家の根底をなす「法の支配」の根幹をなすものですから、厳格に法に則って行われるべき処分と考えられますから、公示送達をこのように安易に使い続けてきたのだとしたら、大きな問題であり、Y市役所の課税担当者は猛省するべきだと思います。

そこで、今後このような間違いが起きないようにするために、Y市役所としては
①滞納処分に先行して行うべき送達の手順を再確認する必要があると思われます(公示送達の要件を再確認する)。
②また、上記4にも書いたように、在外転出者Xに対し、Y市役所は、新住所を「A国」とだけ書くように教示し、具体的住所を書かせなかったために、滞納処分においても「送達が困難」と誤解する伏線を張ってしまったものと思われます。
 そこで、在外転出者に対しては、新住所につき、国名のみならず、具体的な住所を書くように教示することで、このような問題の再発を防止できるのではないかと思います。
 さらにいえば、在外転出者がいる場合には、そこで一旦税金を清算できるようにするとなお良いとは思います(これは立法マターでしょうが)。