かつて、こんな事件がありました。
大分県警が、女性に乱暴した疑いのある男を、被害女性の心情に配慮して裁判員裁判の対象とならない強姦(ごうかん)容疑で逮捕、送検した事件で、大分地検は27日、男を裁判員裁判の対象となる強姦致傷罪で大分地裁に起訴した。
地検は「法と証拠に基づき、適正に起訴した。プライバシーには配慮する」としたものの、裁判員裁判になることについて女性が納得しているかは、説明しなかった。
起訴されたのは、大分県杵築市相原、無職半沢周二被告(37)(強制わいせつ罪などで公判中)。起訴状によると、半沢被告は昨年9月4日未明、大分市内の路上で、帰宅中の20歳代のアルバイト女性の体を押さえつけて乱暴し、頭部打撲など5日間のけがをさせたとしている。
県警は当初、女性がけがをしたことから強姦致傷容疑で捜査したが、女性が「事件を知られたくない。裁判員裁判で審理してほしくない」と訴えたため、同容疑での立件を見送り、強姦容疑で送検した。
(2010年4月27日23時34分 読売新聞)
最終的には、結局、裁判員裁判対象事件となる強姦致傷での起訴に踏み切ったのですが・・・
被害者への配慮はどうしたらいいのでしょうか。
結論。できません。
この条文は、
「被告人の言動、被告人がその構成員である団体の主張若しくは当該団体の他の構成員の言動又は現に裁判員候補者若しくは裁判員に対する加害若しくはその告知が行われたことその他の事情により、裁判員候補者、裁判員若しくは裁判員であった者若しくはその親族若しくはこれに準ずる者の生命、身体若しくは財産に危害が加えられるおそれ又はこれらの者の生活の平穏が著しく侵害されるおそれがあり、そのため裁判員候補者又は裁判員が畏怖し、裁判員候補者の出頭を確保することが困難な状況にあり又は裁判員の職務の遂行ができずこれに代わる裁判員の選任も困難であると認めるとき」
と長ったらしく書いていますが、
要するに
裁判員の身に危険がありそうな場合(しかもこの危険は具体的なものを指すと考えられている※)に限定されています。
本条に、被害者のプライバシーが侵害される可能性のある場合は、除外事由に指定されていないのです。
早い話が、被害者のプライバシーなどには、これっぽっちも配慮していないのです。
こんなことぐらい、立法者(発案者)は思いつかなかったのでしょうか。
あまりにもお粗末すぎます。
そもそもが、性犯罪という、精神的にこれ以上なく傷つけられる犯罪の被害者に、なりたくてなったわけでもないのに、そのうえ、こんな糞法によってプライバシーを侵害される恐れを抱かなくてはいけない。
被害者が一体なにをしたというのでしょう。
被害者保護の法制が間違った(被害者を実質的に救済していない)方向に行くばかりか、望んでもいない裁判員裁判でセカンドレイプ。
これが、「国民のみなさんが裁判に参加することによって、国民のみなさんの視点、感覚が、裁判の内容に反映されることになります。※2」(法務省HPから引用)なのでしょうか。
誰のための裁判?
僕は国民ですけど、こんな視点や感覚、もちあわせてないですが何か?こんな無神経な視点・感覚を持てというのなら、私は非国民でいいです。くだらん制度です。
こういう、被害者の人権をないがしろにしている制度を推進している日弁連は、人権擁護のための団体というなら、猛省してもらいたいと思います。
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※1 参考:弘文堂 解説 裁判員法 立法の経緯と課題(池田修著)
※2 この、裁判員制度のコンセプト自体があまりにも幼稚すぎるのも気になりますが