弁護士の向原です。
自分の解説しているブログのコメントの中に、過去の学費より現在はディスカウントされていて不公平ではないかとのお話が出てきました。
このお話を聞いて真っ先に思い出したのが

マンション値下げ販売

です。
こ れは、同じマンションなのに、売り出し時は5000万だったのが、売れないので、ディスカウントして、3500万で販売したことについて、不公平感を感じ た既存住民が、マンション販売会社や住宅供給公社を訴える、というもので、バブル崩壊後にかなり流行った訴訟類型です。

その多くが、既存住民側敗訴で幕を閉じているのですが、一部、勝訴しているものがあり、その中で、上記法科大学院の話にもリンクするのかもしれない、と思ったものがあります。

今日は時間がないので頭出し(というか自分のための備忘録的な感じ)だけにしますが、
札幌地裁2001年5月28日判決
という裁判例があります。これはマンション販売業者(公社)の法的責任を認めたものですが、そのことについて触れられた重要箇所だけをピックアップしました。

被告が平成八年六月以降に本件住戸を販売した方法をみると、本件サービスは、多額の現金交付も可能で あって、極めて特異なものであり、公社割賦払制度も、一〇年間に限り、元金返済が据え置かれ、年利も一パーセントに押さえられた、当初の返済がかなり緩やかなものであったから、購入意思があってもローン返済能力のない者や購入意思自体疑わしく現金交付を狙って金員を取得しようとする者らが申し込んでくる可 能性を否定できないものであった。そして、被告は、信和建物等のあっせん業者に販売あっせん業務を委託したものであるから、右業者の活動によって本件サー ビスの内容が不特定多数の者の知るところとなり、不良入居者を誘因する危険性が高まったのみならず、多額の現金交付に右業者又はその従業員が介在し、自らがその全部又は一部を騙取するなど不正を働く可能性が生じ、特に右業者又はその従業員と購入希望者が意思を通じ合えば、現金交付を目的として購入申込みを することが極めて容易となるものであった。
したがって、被告は、以上のような条件下で本件住戸を販売するに当たっては、販売あっせん業務を委託する不動産業者及び販売に携わる従業員の実態等について調査し、信頼し得る不動産業者に委託するとともに、その後においてもその業務を監督し、また、これらの者のあっせんにより売買契約を締結する場合には、被告の担当職員自らが購入希望者との契約締結に当たるのはもとより、購入希望者から購入意思、返済計画、家族構成等を聴取し、真に購入意思及 び返済能力を有しているか否か、暴力団関係者か否か等を調査確認すべき義務を負っていたものと認められる
(中略)
(6) その結果、前記1(二)のとおり、悪質又は不注意なあっせん業者の勧誘等により、本件住戸の売買を介して、暴力団関係者を含む不良入居者が多数本件住宅に入居し、資力や素行に問題のない者同士による良好な居住環境を期待して本件住戸を購入した原告らは、右期待に反した生活上の不快、 不安等の不利益を受けているのみならず、管理費等の滞納や管理組合の意思決定の困難等により原告らの共同生活上の利益が侵害されるとともに、暴力団関係者 や不良入居者が入居することにより本件住戸のイメージが低下し、本件住戸の財産的価値の低減も招いている
(中略)
なお、右認定のような事実関係の下においては、被告は、不法行為上も、暴力団関係者や不良入居者に本件住戸を販売することを回避するため、販売 あっせんを委託する不動産業者及び販売に携わる従業員の実態等を調査するとともに購入希望者から事情聴取をし、購入意思及び返済能力を有するか否か、暴力団関係者か否かを調査確認すべき義務があったのに、これを懈怠したのは違法であるといえるから、これによる損害賠償の責任も負うというべきであ る。

値下げ自体を不法行為としたわけではなく、販売斡旋を第三者にやらせた→その際に被告本人(公社)が負うべき注意義務を懈怠して不良入居者を入れてしまった→住民の生活上の不快・不安等の不利益を与えた+本件住戸のイメージが低下し財産的価値の低減を招いた、という点が、不法行為を構成する要素となっています。

これを法科大学院に置き換えると、値下げ自体を不法行為とすることはやはり難しく、同等の評価根拠事実を組み込めば、もしかすると勝機があるかもしれないと考えたところです。

ポイントになるのは
「販売斡旋をやらせた→その際に公社が負うべき注意義務を懈怠」
「不良入居者が入った」
「本件住戸のイメージが低下した」
「本件住戸の財産的価値の低減」
という点です。

これを法科大学院におきかえると
「販売斡旋をやらせた→その際に公社が負うべき注意義務を懈怠」
→法科大学院は、自分自身で学生を選抜しており、第三者に委託していないので、「負うべき注意義務」の中身の問題になる
「不良入居者が入った」
→なにもいうますまい
「本件住戸のイメージが低下した」
→下がりまくりなのは明白ですが、これをどう定量的に示すか。
「本件住戸の財産的価値の低減」
→入学者が「購入」したのは、住戸のような財物ではないので、その価値の算定をどうするかが課題です。

ということで、問題点がいくつか浮かび上がってきましたが、今日はそこまで検討する時間がありません。
というわけで、追って、時間があるときに考えてみたいと思います。